#74 マヤカシ

薄日の射す暖かな午後。
(アイスクリームが食べたいな)、などと呑気な事を思いながら窓辺で町を眺めていたが、ふと遠くの、いつもは緑鮮やかにクッキリ見える馴染みの丘が、今日は濁ったように白く霞んで見えているのに気がついた。

黄砂だか、PM2.5だかのせいだろうか。

〈PM2.5注意報〉という言葉をテレビで初めて見た時、(午後2時半に何が起きるんだろう)と思ったものだが、そうではなく、これは喘息持ちやアレルギー持ちには厄介な有害物質らしい。 かくいう私も他人事ではない。

何年か前に呼吸困難でICU行きになった事があり、以来、呼吸器の具合が良くない。吸引ステロイド剤のおかげでなんとかやっているが、この頃はカネがないので毎日やるべき吸引を二日に一回に減らしたら、「呼吸器の病気は、突然悪化して、突然死ぬよ!」とかいってオコられた。 まあ確かに、呼吸困難時のあの恐怖は憶えているので、あーゆーのは嫌だな、と思う。
熱したフライパンに落ちた水滴が、シュン、と一瞬で蒸発するように死ぬのなら、べつにそれでいい気はするが。

しかし人間がそんなふうに自分で意図して死ねるなら、つまり自死がそれほどカンタンな事なら、世界の人口は今の半分も無いのではなかろうか。 いや雪崩現象で、それ以下になるかも知れない。
富裕な特権支配層は自死などしないだろうが、しかし特権支配層が支配する大衆の大半が死んでしまったら、特権支配層は特権も支配も失くした、ただのオジサンやオバサンに成り果てるのだから、これもじき死ぬだろう。 そうなってはコマる、という宇宙だか神だかの思惑で、我々は〈死〉に対して脅えるように造られている。
〈死〉と〈恐怖〉のセットというのは、じつはマヤカシなんだろうが、効果あるよなあ、確かに。

とかいらんこと言うてるうちに、何が書きたかったのか忘れてしまった。