知り合いがギターを貸してくれた。
自分のギターを持ってはいるが、十数年使ううちに色々不具合が出てきた所だったので、有り難かった。
真新しいそれを弾き下ろしてみると、じつにいい音がする。
ああ、ギターの音はこれだよな、と、古いギターに目を向ける。
ですね、と言うように、古いギターは壁に凭れている。
ボクは少し休んでます、と言うように。
それでこの数日、暇があれば、借りたそのギターを弾いている。
弾くと、そんな気も無いのに曲が出来る。
いまさら歌などつくっても儚いことだと思いつつ、やっぱり、つくってしまう。
Dを弾けば、Dのコードが持っているメロディーが分かる。
Eを弾けば、やはりそこに隠れていたメロディーが見えてくる。
メロディーを取りだすと、それに似合いの言葉がひとりでに生まれる。
そんな事をもう何十年もやってきた。
そうして出来た歌を、カセットに録り、コーヒーをいれ、煙草に火を点けて、ぼんやりと聴く。
うん、と一人満足する。
ささやかな、ささやかな、ささやかな、たしかな幸福が有る。
俺に出来るのは、こんなことくらいだ。
それを思う。
だったら、それをやればいい。
〈たとえドブの中に倒れても、私は前のめりに死にたい〉
坂本龍馬の言葉らしいが、そんな大層な話でもないが、少しだけ、似たような気分がある。