#102 ススキ

近くの高原に友人とススキを見に行った。
毎年この時期になんとなく訪れる場所である。

とくに何があるという訳でもないが、小高い丘に上がると、山に囲まれた名も知らぬ村が見下ろせ、その斜面に無数のススキが風に揺れている、そんな風景を、この時期、なぜかふと見たくなる。

とくに時間を見計らって出掛けた訳ではなかったが、着くと、ちょうど山に陽が沈みかけている、そんな時間だった。
黄金色の夕日に染められて、ススキが波うつように揺れていた。
煙草に火をつけ、しばらくのあいだ、そんな風景をぼんやりと見ていた。

古い流行歌などで、ススキは儚(はかな)いものの象徴のように歌われたりするが、そして見ていると、確かに、風に弄ばれて揺れるススキは、いかにも弱く儚いものに見えたりもするが、

しかしこれが強さなのではないかと、風のなかでそんなことを思った。

風に吹かれるまま揺れるススキは、揺れることで、けして折れることはない。
風に立ちはだかることも、風を拒むこともなく、許された時間を、ただ、揺れつづけて生きている。

この強さが、俺には無かったな、

短くなった煙草を口にはこびながら、思った。