#49 マジックミラー

何年くらい前になるだろう。
ビデオからDVDへ移行する時期、レンタルビデオ店がビデオを一本100円で売りに出していた。
それでも中々さばけなかったのか、やがて一本10円の店まで現れた。

「サウンドオブミュージック」が、「ティファニーで朝食を」が、「ブレードランナー」が、一本10円でそこにあった。

(いいのかこれで)
と思いつつ、私はこの時期、100本以上の映画を買った。

先日プチ断捨離をしていて、そうした山積みになった映画を整理していたら、〈レイブラッドベリシリーズ・愛憎と恐怖〉という一本が出てきた。

〈トワイライトゾーン〉とか〈ヒッチコック劇場〉とか、あの類いのアメリカの30分番組を4話集めて一本にしたものであるが、ジャケットを眺めながら、その中の1つのエピソードを思い出した。

醜い小人が居て、彼は毎晩のように近所の遊園地へ行き、そこのマジックミラーの部屋へ入る。

体が捻れて見えたり、伸びて見えたり、逆に縮んで見えたり、歪んで見えたり、
というその部屋が、逆に、醜い小人である彼を、美しい普通の人間に見せてくれる。
彼はそこに映る自分を見たくて、毎晩そこへ通うのである。

哀しくもあり、考えさせられる話でもある。

思うのだが、こういうマジックミラーのような神経を持った人は生きててラクだろうなと思う。
客観が排除され、主観だけで生きられる。
他人からどう見られていようが構わない。というかそれに気づく感覚が欠落している。
自分が見たい自分だけが見え、自分が見たい現実だけが見える。
行動も言動も、全て自分が正義である。
やりたいことをやり、言いたいことを言う。
省みたり、恥じ入ったりすることは無い。
歪んだ鏡に映る自分は、常に正しく、美しい。

そういう人は、たまに居る。

ただの「困った人」程度なら苦笑していればいいが、これが現職の合衆国大統領とかになると、苦笑ではすまないことになる気がする。