#24 プロレス

昨日深夜に遠方の友人からTELがあり、二時間ばかり、だらだらと話をした。
昔話や共通の友人の消息などを交わすうち、子供の頃に見ていたプロレスの話になった。
それで思い出したのだが、子供の頃、私の住む地方には日本テレビ系列のテレビ局がなかった。民放は、テレ朝系、TBS系、フジテレビ系の三局だけだった。

なぜプロレスの話でそこへ記憶がいったかというと、友人の話す全日本プロレスの試合を、私は子供の頃見た記憶がないことに思い当ったからだった。全日本プロレスは、確か日本テレビがやっていたのだと思う。

代わりに、というのも変だが、TBS が国際プロレスという団体のものを放送していて、私はそれをよく見ていた。
グレート草津、ストロング小林、サンダー杉山、豊登、とかが居た。サンダー杉山の雷電ドロップ、豊登のパコンパコンなどは、いま思えば、そのまま吉本のギャグのようだった。
外国人レスラーとしては、カールゴッチ、ビル・ロビンソン、ルー・テーズ、そしてモンスター・ロシモフ、のちのアンドレ・ザ・ジャイアントなどが居た。 そのモンスターロシモフを、私は子供の時、間近で見たことがある。

たぶん博多あたりに巡業で来たついでに、私の住んでいたような周辺の小さな町も回っていたのだろう、その夕方、河川敷にサーカスのような大きなテントが張られ、一日限りのプロレス興業が催されたことがあった。 私は友達とそれを観にいった。
友達は、機会があれば贔屓の選手にサインを貰おうと色紙やマジックペンを買い込んでいたが、私はTシャツ(当時Tシャツという言葉はまだなかったと思うが)に書いて貰うつもりで、マジックペンだけを握りしめて会場に行った。白地にトヨタ2000GTのイラストの描かれたシャツが、その時期私のお気に入りで、毎日のようにそれを着ていた。

やがて開演となり、会場で暫く前座の試合を観ていたが、子供心にもファイトの二流っぷりを感じたのか、少し退屈した私は、友達を残してテントの外へひとり出た。メインの試合までは、まだ暫く時間がありそうだった。 夏だったのだろう、外はまだ明るかった。
ブラブラしているうち、楽屋の入り口辺りを歩いていたのか、ふいに私の目の前に、モンスターロシモフが、のそり、とテントから出てきた。

一瞬の恐怖混じりの驚きのあと、なんとなく、(あ、大丈夫だ)とそう思った。
私は彼に近付き、その巨体を見上げながら、マジックペンを差し出した。そしてシャツを両手で下に引っ張り、ここにサインして欲しいという意志を示した。 彼はニコリともせず、といって不機嫌そうでもなく、黙ってペンを受け取ると、静かに腰を屈め、そこにサインをしてくれた。
ビル・ロビンソンのファンだった私は、その日から、彼、モンスター・ロシモフのファンになった。

思い出すほどに、なんだか懐かしくなり、今どうしているのだろう、とネットで引いてみた。
古館伊知郎をして〈一人民族大移動〉と言わしめた巨体と、その巨体に似合わぬしなやかなリングさばきで世界的な人気レスラーだった彼は、1993年、43歳の若さですでに世を去っていた。

      *

アンドレ・ザ・ジャイアント(モンスター・ロシモフ)
身長223cm
体重236kg(全盛時)
1993年1月27日没
享年43歳。

Wikipediaより