#16 ドライブ

月に一度か二度、友人とドライブをする。
とくに目的などなく、気の向くまま、あっちの町からこっちの町へと、クルマを駆らせる。

私はクルマは持っていない。免許は持っているが、普段運転することは殆んどない。
友人の運転する友人のクルマで、ぶらぶらするのである。

黄昏時にクルマを出し、茜く染まる雲など眺めながら、とりあえず西へ向かって駆り始める。

駆りながら、なんだかんだ喋っている。
高校時代からの友人なので、話はいくらでもある。
あれやこれや喋っているうちに、いつか日は暮れきって、クルマはバイパスに乗り、オレンジ色の水銀灯の下を駆り始める。

左右に家々の明かりが遠く見下ろせ、私は窓を開け、ボンヤリとそれを眺めつづける。車内のスピーカーからはサイモンとガーファンクルなどが聴こえている。 

やがてクルマはバイパスを離れ、寂れた二車線の国道にでる。
友人は私と喋りながら適当にハンドルを切りつづけている。
そのうち、夜ということもあり、自分たちが今どこに居るのかが分からなくなったりする。
友人は少しだけヘンな奴なので、たぶん、道に迷うことを楽しんでいる。
毎回、器用に道に迷ってみせる。

「ここ、どこやろ?」とか言う。
「知らん」と私は答える。
ポール・サイモンが〈アメリカ〉を歌っているが、少なくともアメリカではない。
ふと思いたち、「ジョン・デンバーが聴きたい」と私はリクエストする。
友人は運転しながら、iPodだかなんだかを片手で操作し、ジョン・デンバーを探し当て、鳴らしてくれる。

いつかクルマは街に入り、古い商店街を抜け、ナンタラ駅の前に出る。

「ゴダイゴのガンダーラが聴きたい」とか、また私が言う。
ガンダーラが、やがて鳴りだし、ガンダーラ、ガンダーラ、と、私は窓を開けたまま大声で歌う。

途中、コンビニで100円のドリップコーヒーを買い込み、またクルマは駆りだす。

駆るうち、ひょい、と空港の裏手に出たりすることもある。
駐機しているジャンボ機をフェンス越しに眺めながら、車内にはコニー・フランシスが聴こえてたりする。

空腹を覚え、「腹がへった」と私が言う。
最寄りのマックにクルマを着け、照り焼きバーガーを買い、それを頬張りながら、今度は懐かしの歌謡曲などを車内で歌いまくる。

何処へ行くともなく、だらだらと、夜を縫うようにクルマは駆りつづける。

そんなドライブを、昨夜も楽しんだ。