#25 太宰さん

近頃は、わりに早く起床するようになった。
心を入れ替えた訳ではなく、あまり眠れないのである。だいたい三時間か四時間で目が醒めてしまう。
夜更かしは相変わらずなので、午前四時とか五時とかにベッドに入り、八時とか九時とかに起きてしまう。酷い時は一時間ほどで起きてしまい、やることがないので、コーヒーを煎れ、山の稜線から昇ってくる朝日を眺めたりしている。
思うように眠れないのは不快だが、このところずっと天気が安定しているので、午前中の日差しを窓辺で浴びるのは、それなりに心地好い。 夏のあいだ、あれほど凶暴に思えた太陽が、人が変わったように優しく、温かい。
「晴れた日に永遠が見える」という映画が昔あったが、たしかに、おだやかに陽を浴びていると、いろんなことが心に訪れてくる気がする。 好きだったひとのことや、若くして死んだ親友のことなどが思われてくる。
今日までのいろんなことが順不同に立ち現れて、俺もそれなりに生きてきたんだなあ、と思ったりする。
知り合いの貸してくれた名言集の本などを取り上げ、パラリと捲ると、ボードレールやスタンダールに混じって、太宰治の言葉があった。小説「晩年」のなかの一節である。

〈死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目が織り込められていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。〉

太宰治 「晩年」

ふと目にとまったそんな言葉が、なぜだか胸に沁みた。

#7 映画

BS で録画していた「アリスのままで」という映画を、昨夜観た。
大学で言語学を教えるバリバリのキャリアウーマン(成人した三人の子供をもつ五十歳の女性)が若年性アルツハイマーになり、そこからの病気の進行の様子や、それにつれて変わっていかざるを得ない本人や家族達の姿が描かれていた。 重いテーマだが、観る側に何を押し付けるでもなくテンポよく展開していくので、一時間四十分、全くダレることなく観れた。

映画を観る際、私の勝手な評価項目として、
1.ストーリーがよかった
2.役者がよかった
3.映像がよかった
4.音楽がよかった
というのがある。
このうち1つでも該当してくれれば、その映画は私にとって観てよかった映画ということになる。
この映画の場合は2である。ジュリアン・ムーアがやはり素晴らしかった。夫役のアレック・ボールドウィンは、やや残念であった。エド・ハリスとかだといいなあ、と思いながら観ていた。なんならニコラス・ケイジでも。

ところで、見終えて思い出したのだが、韓国ドラマで似たシチュエーションのものが前にあった。日本語のタイトルは「記憶」だったか。こちらはバリバリの初老の男性弁護士が、やはり若年性のそれになる、というものだったが、これもまたいい役者さんが演っていた。

「アリスのままで」は、本編の最後の最後、エンドロール直前のジュリアン・ムーアが、とてもとても、素晴らしすぎる。
たしかアカデミー賞主演女優賞をもらったんだよな、これ。